第1章:朱色の出会い

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男は目をこすり、流れる涙をそっと拭った。 唇を震わせながらもグッと噛み締め、握っている拳に力が入っていた。目を瞑り、一瞬眉間にシワがよって苦しそうな表情を浮かべた。何かに耐えているようだった。だが、次第に緩んでいき、男は一つ深呼吸をした。 涙はもう流れなかった。 男はもう一度空を見上げた。 その先にある何かを見つめて。 《パンッ!!》 男は両手で顔を強く叩いた。 「うぅ。」 痛みに声が漏れ、頬にほのかな紅葉がついた。 男は頬を優しくさすった。 さっきまでとは違う清々しさを取り繕うとしているが。どこか濁りを残したような表情で彼はニカッと力一杯空に笑った。 私はただそれを全て見ていた。
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