0人が本棚に入れています
本棚に追加
布団が吹っ飛んだ
布団が吹っ飛ぶ直前、私は確かに彼の声を聞いた。それは消え入りそうなほど小さく、抱きしめたらバラバラに壊れてしまうんじゃないかってぐらい儚げな一言だった。
「ぼくのこと、忘れないでね…」
空へと舞い上がっていく布団。もう、会えないの?心の中に彼との思い出が沸き上り、涙となって溢れ出した。
いつも私の傍にいてくれた。いつでも私を暖かく包み込んでくれた布団。どんなについらい夜も、彼に抱きしめられれば穏やかな眠りに落ちていけた。布団の中でなら全力で泣くことができた。
行かないで布団。突然すぎるよ。あなた無しで、私はこれからどうやって生きていけばいいの?
私は布団の名を叫んだ。
布団はアパートの狭い庭に『く』の字で落っこちていた。私はサンダルを履いて、駆け足で彼を迎えに行った。そして倒れていた彼を抱き起し、雑草と湿った土を指先でそっと優しく払い落としてあげた。
私はその場で布団を優しくギュッと抱きしめ、その柔らかさを頬で確かめた。
「どこにもいっちゃダメ…ずっと一緒だよ……」
いつもの彼の感触。ほのかに、お日様の香りがした。
最初のコメントを投稿しよう!