布団が吹っ飛んだ

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布団が吹っ飛んだ

 布団が吹っ飛ぶ直前、私は確かに彼の声を聞いた。それは消え入りそうなほど小さく、抱きしめたらバラバラに壊れてしまうんじゃないかってぐらい(はかな)げな一言だった。 「ぼくのこと、忘れないでね…」  空へと舞い上がっていく布団。もう、会えないの?心の中に彼との思い出が沸き上り、涙となって(あふ)れ出した。  いつも私の(そば)にいてくれた。いつでも私を暖かく包み込んでくれた布団。どんなについらい夜も、彼に抱きしめられれば(おだ)やかな眠りに落ちていけた。布団の中でなら全力で泣くことができた。  行かないで布団。突然すぎるよ。あなた無しで、私はこれからどうやって生きていけばいいの?  私は布団の名を叫んだ。  布団はアパートの狭い庭に『く』の字で落っこちていた。私はサンダルを履いて、駆け足で彼を迎えに行った。そして倒れていた彼を抱き起し、雑草と湿った土を指先でそっと優しく払い落としてあげた。  私はその場で布団を優しくギュッと抱きしめ、その柔らかさを頬で確かめた。 「どこにもいっちゃダメ…ずっと一緒だよ……」  いつもの彼の感触。ほのかに、お日様の香りがした。
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