這い上がる手

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 Sさんは夢を見た。  真っ暗な中、誰かが背中の、ちょうど腰の辺りをぐいぐいと押してくる夢だ。例えるなら、指圧されているような感じだったが、ちっとも気分は良くなく、朝起きてみるとそのあたりが妙に痛んだ。  翌日の夜、また夢を見た。  今度は、背中の辺りだった。力をこめて、棒か何かで背中のあちこちをきつく押しこまれているような感じだった。起きたら、やはり背中じゅうが痛んだ。その日は一日身体が重く、仕事がなかなか捗らなかった。  帰宅して早々に風呂に入り、床につく。その夜の夢で異変を感じたのは肩だった。  揉むような手つきだった。そう、手だ。それは誰かの手なのだ。三日目にして、Sさんは振り返ってみようとした。だが、どうしても後ろに向けない。  必死になっているうちに目が覚めた。荷物を背負わされているように肩が重くてたまらず、あたためても湿布を貼ってもそれは取れなかった。  憂鬱な気分と気だるい身体で会った友人にその話をすると、 「そのままいくと、今晩は首?」  と、おそろしいことを言う。  その晩、Sさんは友人と一緒にお参りに行った神社でいただいた御守りを首にかけ、眠りについた。  夢は見なかった。  翌朝、胸元で御守りが酷くひしゃげていた。  ちょうど、両側から強い力で握りしめられたような感じだったという。  終
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