白紙

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 対する私の学業成績は、辛うじて留年だけは防いでいる程度だ。この学園は名門校だが、完全に入学した時点で精一杯だったパターンだった。安くない学費を捻出してくれる両親には悪いが、人間限界がある。 「有坂さん、だよね」  一年くらい同じ場にいるのに、面と向かって声を聞いたのは今日が初めてだ。鈴鳴き声だと思った。臆病なウサギも同じ様な鳴き声をするに違いなかった。しかし自信がない訳でもない。 「うん……えっと……それで……何か……」  彼女とは違って私はどうもしどろもどろになってしまう。孤立している人間はコミュニケーション能力が劣化してしまう。  ただ他のクラスメイトと話すときよりはマシな気がした。それは彼女が同じ孤立側の人間だからだろうか。もちろん彼女の孤立は頭脳から、私の孤立は育ちに由来する。  天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず、とは言うが人は平気で人の上に人を造るし人の下に人を造る。こんな名門校に入学したら、嫌でも感じなくてはならない。  親が士業だったり、ドクターだったりするのはまず当たり前だ。永武完奈だって両親が医師だと聞いた。一方で私の両親の最終学歴は父が高卒、母は中卒だ。  鳶が鷹を生んだって、蛙の子は蛙でしかない。現に、入学してからの成績がそれを物語っていると思う。育ちに成績の責を負わせるのは、ただ惨めになるけれど。 「そんなに慌ててどうしたの?」     
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