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シュリグスクでは、新たに琉球王となった金福が出迎えた。
初恋の人との再会に、
「きれいに年とったね、テダ」
といってくれた。
そして、もうひとり懐かしい人との再会があった。
ティルルである。
今は護佐丸の妻となったティルルは、テダの隠棲後、その後を継いで最高神女の地位にある。
「テダさま。私はテダさまのお留守をお預かりしておりました」
そういうティルルにも悩みはある。
息子のもりちか盛親のことである。
その性格すこぶる散漫で、いかなる学問も受けつけず。物事の理を理解しようとしない。
天下の英雄護佐丸の嫡男であるのにも関わらず、周囲の期待を裏切ること大であるという。
「人それぞれだから」
とテダはいうが、アマワリのことを思うと人事ではない。
そのアマワリは護佐丸の紹介で、琉球水軍の見習い士官となっていた。
「いっぱしの水師になれ」
といって、その跡目を継がせようとしたが、いかんせん舵取り、帆上げなど水夫の仕事に向かない。
挙句の果て、
「おりゃ火長!」
と自分の上役を怒鳴りつけてしまう。
上下の秩序が絶対の海の上で、これは致命的な欠陥だった。
水軍での仕事と人間関係がうまくいってない頃、海上である倭寇と小西党との海戦に遭遇する。
倭寇との戦いに敗れ、ただ一隻残った安宅船も燃え上がる中、人道精神による火長の命令でアマワリは炎上する船へ飛び込む。
全ての小西党の者たちが死に絶えた中で、アマワリは「桜」という少女を助ける。
命を救われた桜は小西党の壊滅を知り自害を図るが、フセライの「命(ぬち)どぅ宝」の精神を諭され思いとどまる。
そして小西党再興を誓った彼女は、
「男になる。男になって倭寇を根絶やしにして堺へ凱旋する」
と息巻き、名を「小西八五郎」と改めるのだった。
アマワリは水軍をクビになった。
「テダさまの息子だから、テダさまの顔を立てて一度は使うが、今後はまっぴらよ」
とお払い箱になったのである。
アマワリは護佐丸に、今度は陸軍に入れ、と勧められるが、それを断り、勝手に久高島へ戻ってしまった。
「八五郎」を水軍に託して、である。
その頃、テダに最高神女の地位を「返上」したティルルは、読谷グスクへ戻り、息子盛親の教育に腐心していた。
盛親の姉のヒナはまともに育っていたが、この息子だけは、どうしようもない。
ある日、座喜見グスクで行われた流鏑馬で一本も的を射抜けず、その上落馬した盛親をティルルは厳しく叱責する。
「あなたぐらいの年には、父上も私も琉球統一のために戦っていたのよ」
屈辱の上に投げかけられた言葉に、盛親はその心を閉ざしてしまうのだった。
息子の心を失ったティルルは、夫の護佐丸をなじってしまった。
「あなたが、きちんと武士の心を説かないから、盛親はダメになったのよ」
そのティルルの言葉を背に、家庭の現実から逃れようとするかのごとく、護佐丸は廻国の旅に再び出るのであった。
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