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ドラマストーリー4 布里と志魯の乱
それは喜屋武の解任からはじまった。
金福が俄かに卒し、その直後、志魯が即位を宣言。
彼は反対派の一掃を図り、琉球陸軍の最高司令官である喜屋武を解任、禁足を命じた。
ついで、自分の対抗馬と目される布里を滅ぼすべき討伐令を発するが、
「自分は巴志王の息子である」
と王位継承の正当性を主張し、シュリグスクの各門に配備していた自軍を正殿に突入させ、事実上のクーデターによって政権を掌握する。
間一髪で難を逃れた志魯は、シュリグスクの周辺に兵を展開し、布里軍と対峙する。
この非常事態を見た護佐丸は、この内乱を鎮圧するため、最高神女テダの命であると称して出陣。
拙速の進軍で両軍の間に割って入ることに成功する。
護佐丸は、シュリグスクにこもる布里軍、周辺に展開する志魯軍の両軍と戦うため、自軍を二手に分け、志魯軍には抑えの部隊だけ配し、主力を持ってシュリグスクの奪回を最優先に、全力で戦うことにした。
まず各門に対して攻撃を開始、戦いを知らない若者たちの抵抗を排除しつつ進むが、こちらの犠牲は増える一方。
しかし、一旦、門の守りを破られると、
「暴力をふるうな、乱暴はやめろ」
と白旗を掲げる始末。
しかも、
「按司の指定、王府の役人として相応の待遇を要求する」
ときたもんだから開いた口が塞がらない。
(こいつら我儘放題やっときながら、この言い草はなんだ)
と護佐丸は思ったが琉球統一戦争を知らない世代説教しても始まらない。
自軍兵士たちに私的制裁を禁止しながら各門の抵抗を排除しつつ、確実にひとつずつ落としていった。
周辺ではヤジウマも集まり、石畳の狭い城下で、ただでさえ少ない部隊が各個に孤立し、志魯軍や軽薄なヤジウマによって袋叩きにされる事態が各所に起こっていた。
アマワリは、それを止める側で奔走していたが、それも限界にきていた。
最後に残った正殿ー北殿ー南殿の中核へ迫った護佐丸軍は、最後の抵抗にあった。
それも頑強なものであり奉神門を破られると、御庭を中心に激しい白兵戦が起こった。
その凄まじい乱闘の中、テダは駆け回り、
「戦をやめよ!首里大君のテダが命じる。無益な戦さをやめよ!」
と叫びつつ停戦を求めるが、彼女もまた狙われる。
一本の矢が飛んできたとき、それを喜屋武がテダを庇って受けた。
「喜屋武隊長!」
テダが叫んだとき、
「ナキジングスクのときもいってたな、ティルルにヤツ・・・・・・・・・テダさまは、かわいいんだから守ってあげなくちゃダメだって。最後の最後まで、アイツの言葉を守るハメになったな」
と声も絶え絶えにいった。
「喜屋武隊長死んじゃダメ!ティルルに合わせる顔がないわ」
そういうテダの腕の中で、この歩兵隊長は笑って息絶えた。
激しい戦闘の結果、最後まで抵抗していた正殿も降伏し、護佐丸が突入したとき、布里は自害して果てていた。
おどおどして手をあげる降伏兵に、
「おまえらみたいに戦さを知らない人間が、こんな騒ぎを起こすのが、いちばんタチが悪いんだよ」
と護佐丸は憤るのだった。
護佐丸と再会したテダは喜屋武の死を告げた。
「なんてことだ。ティルルにどう告げればいいんだ」
義兄であり親友だった男を悼んでいると、不意に銃声が聞こえた。
周辺城下で志魯軍に対して、アマワリの鎮圧部隊が鉄砲を一斉射撃したのである。
ヤジウマを含む暴徒は次々と倒れ、それに容赦なく射撃を浴びせ、暴徒が盛り返してきたら退き、暴徒が後退したら、これを追撃し徹底した射撃を加え、ついに壊滅させた。
混乱の中の一大鎮圧作戦は、志魯自身も銃殺されるという大虐殺で終わった。
一般市民も含む累々たる死体の中へ踏み込んできたアマワリの父である小禄は、
「おれは、おまえに人殺しをさせるために鉄砲を教えたわけじゃねえ」
とアマワリに怒るのだった。
それを聞いたテダは、
(昔、カーリーさんも藩水師さまに同じことをいわれていた)
倭寇働きをするために船を教えたわけじゃないと。
今は大陸へ帰った藩仲孫と喜屋武の未亡人となったカーリーと同じ運命のめぐり合わせに大きな悲劇性をテダは感じていた。
喜屋武の死を知らされたティルルは、
「お兄ちゃんは、最後まで、私との約束を守ってくれたのね」
といって涙するのだった。
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