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エピソード6 護佐丸、アマワリの乱
そして運命の1458年。
琉球史上最大の悲劇ー護佐丸、アマワリの乱が勃発する。
事の起こりは金丸だった。
彼は、泰久に、
「アマワリは危険」
と説く。
が、さすがに、その意見を入れるほど泰久はおろかではなかった。
易々と退けたが、金丸としては、それで充分だった。
泰久に「アマワリ危険」の情報が入れば、ひとりでに噂は広がることを知っていたのである。
次いでアマワリに、
「王府が討伐を策している」
という情報が入った。
もとより金丸のガセである。
が、既にアマワリの心に火はついていた。
小西水軍らの手引きで勝連グスクへ入った金丸は、
「あなたはテダさまのお子である。尚王家に代わって御主加那志前になられるの簡単。易姓革命の理に叶っておりますぞ」
と巧みに誘った。
そして挙兵の折りは、王府官僚団こぞってアマワリ様をお迎え致し、御差床、御書院へとご案内申し上げますと申し出た。
このことがアマワリの決意を固めさせた。
「王府を討つ」
だが、このことは、金丸を連れ込んだ小西水軍が夜通し航海し、泰久に告げられていたのである。。
アマワリ軍は発向する。
まず、シュリグスクの間に立ち塞がる中グスクを攻撃しなければならない。
そこには護佐丸、ティルル夫妻の他、フセライ、小禄がいた。
このとき、テダは最高神女としての神事の都合でシュリグスクにいた。
中グスクは圧倒的な軍勢に囲まれた。
完璧な布陣である。
(見事だ。大したものだアマワリよ)
海には、アマワリが育成し、八五郎が育てる勝連水軍が浮かんでいる。
(さすがテダの息子だ)
感動すら覚えた護佐丸は周囲の者に告げた。
「わしは、ここで果てる」
皆、落ち延びよ、と。
ティルルは断った。
「私は、あなたの妻。あなた以外の人を好きになったことはありません。ぜひ、お供を」
護佐丸は承諾した。
小禄も一緒に死ぬ、といった。
「バカ者。おまえが死んだら、誰がテダを守るんだ。おまえは生きて、テダを最後まで守るんだ」
「でも、おれは親分と一緒にいたいんです」
「いいか。アマワリが王になろうとなんだろうと、テダさえいれば、この琉球は安泰なんだよ。おれたちが汗水たらしたこの国のために生き延びて、テダを守ってくれ」
小禄は渋々同意した。
盛親も戦って死ぬ、といい出した。
「おまえが戦ってどうする。おまえみたいな出来損ないが、わしたちと死んでもどうにもなるまい」
生きて平凡に一庶民として過ごせ、と諭した。
「そんな。おれには武士らしく死ぬことも許されないのか」
嘆いて盛親は小禄に守られつつ落ちていった。
「ああいうより他なかった」
「あの子には生きてもらいたいですから」
ティルルはいった。
「子どものとき、お兄ちゃんにいわれたんです。炎の中で生涯を終わりたければ神女になれと。そのとおりになってしまいましたね」
そういうティルルは笑っていた。
中グスクへ無血入城したアマワリは、護佐丸、ティルルの遺体に対面した。
傍らにフセライが立っていた。
「護佐丸殿は、我が父であり、我が師であった。その生前の功績は抹殺されることもないし名誉も保たれる。遺骸も丁重に扱われる」
そういって礼を尽くした後、
「これから、どうするの?」
とフセライに問われ、
「シュリグスクへ進軍し、中山王府を滅ぼし、琉球国王となる」
と答えた。
「王になってどうするの?高みを極めて、それから、どうするの?」
アマワリは答えなかった。
その代わり、
「姉さん、母さんに伝えてくれ。おれを王にするために、シュリグスクで待っていてくれと」
と告げた。
「アマワリ。マトワカのこと覚えている?あの子、あなたの子を産んでいるわ」
「!」
「もうだいぶ大きくなっていてね。私とお母さんに似て、かわいいわよ」
「王になって二人を迎えに行く」
フセライはシュリグスクへ先行し、それに続いてアマワリの軍団が発向した。
人の津波が起こり、各地の按司が馳せ参じ、まさに革命の勢いがあった。
琉球国民は王朝の交代を予感し、この若き英雄を見守った。
その勢いは、あたかも52年前、武寧のこもるシュリグスクを攻めたときのあの巴志の再現のようでもあった。
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