帰郷ののち

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 駅に到着し電車を降りると懐かしい土と草の匂いがした。 「変わってねえなあ」  ひび割れたプラスチック製のベンチ。広告主に変化がないのだろう、俺がガキの頃からずっと掲示され続けている石井歯科のポスター。一日中寝て過ごす駅長猫の三毛猫タマ。 「お前はちょっと老けたじゃんないかい」頭を撫でてやると片目を開き、ちらっと視線を寄こし、また眠りにつく。  駅の時計を見ると午後4時を指している。約束の時間にギリギリになってしまった。まずったなぁとスマホを開くとメッセージが一通入っている。 『ごめん。親の都合で30分くらい遅れそう。どっかで時間潰してて(^人^)』  自分が遅れる事態にならなかったことには安心したが、30分か。人を待つには中途半端な時間だ。  この地を離れてからすでに4年くらい経ったろうか。一見はほとんど変わっていないとはいえ、ビルが建ち放置されまた建ちと、多少は都会憧れのような躍進はあったことだろう。しかし時折実家に顔を見せていたがこの田舎町でゆったりとした時間を過ごすことはなく足早に東京へ戻っていたのだから、時間変化の様子を楽しむこともなく今のこの町の構造をよく理解していないのだ。つまりどこで時間を潰せばいいのか良く分かっていなかった。  駅からやや遠方に見慣れないビルがいくつか伺えた。企業が入った貸しビルなのか、はたまた雑貨屋やアパレル業界広がる駅ビルなのか。暇潰しに使えるのか判断つかない上に徒歩でどれくらい時間を要するのかも想像できず、歩が進まなかった。それ以上にだ。俺の胸を掻き鳴らす店がすぐそばにあった。パチンコ屋だ。  自動ドアを抜けるとけたたましい音に包まれた。耳をつんざくほどの喧しさも、目に悪そうなパッシングのような光も随分と懐かしい。時間が十分にある訳でもないので、目に付いた適当な機種に座り財布を広げる。経済的な余裕と待ち時間の関係から五千円を取り出し、サンドへ突っ込むと貸玉がジャラジャラと流れる。右手のハンドルを回すと銀色の玉が飛び出し始め、俺も店の喧騒の一部となって溶け出した。
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