帰郷ののち

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 叔父さんは「東京には何でもあるぞ」と、片田舎に住む世間知らずで尻の青かった俺に教えてくれた。まだまだ若く道標を持たない若造がキラキラと光り輝く大都会に憧れを抱くことは無理ないことだった。親の反対を押し切り辿り着いた都会のジャングルには本当に何でもあった。やりたいこと、欲しいもの、行きたい場所。ネットで調べれば簡単に検索結果が得られたし、足を動かせば大概のものはその日の間に手に入れられた。やっぱり東京にはなんでもあるんだ、あの日の自分の決断は正しかったのだ。しかし浮ついた心で東京万能説を信じ続けられたのは最初たった数ヶ月のことで、改宗の日はあっという間にやってきた。  十徳ナイフのように便利な街は、いとも容易く牙を剥いた。東京は物質に恵まれていたし夢を追うための環境は十二分に整っていた。ただ、自ら頭を使い手足を動かして努力しない者には何物になるべきかのヒントさえ与えてくれず、ただ生きていくにしたって厳しい土地だった。アパートの賃料は田舎のそれと比較にならないほど高かったし、米や野菜にお金を払うのは初めてのことだった。アルバイトで稼ぐ給料は生活費を賄うのがやっとで、パチンコやタバコは贅沢品に成り代わり自然と俺の手から離れていった。  パチンコ台のモニターがリーチ演出で光る。映像が上下左右からカットインし、チャンスボタンが赤く灯る。ネオン街に負けないくらいに輝く台をぼんやり眺めながら、待ち人に思いを馳せる。顔を合わせて開口一番、なんて言うだろう。「東京に行って変わっちゃったね」だろうか。何だか薄ら寒い。できるならどうか「いっちょん変わっとらんばい」と笑って欲しい。
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