帰郷ののち

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 エンジンの低い唸り声と土に激しく擦れるタイヤの音が車内を満たす。沈黙を破るように母が話しかけてくる。 「男でしょ」企んだような声色だ。きっと意地悪な笑顔を浮かべている。見なくたって分かる。 「だっでんよか」 「隠さんでよかよ。あーた昨日からガサゴソ準備しよっどー? あーたの様子見てお父さんけそけそやぜぐるしか『男ならそぎゃんせわしかつことなかよ』ってごちゃはつりね」 「お父さんはたいが関係なかとよ」 「母さんはよかばい。今日いぬらんなら連絡だけうっつあすらんようにね。お父さんをあんま心配させんちゃよかよ」 「だけんそぎゃんことなかとが」  気がつくと舗装された道を走り始め、隣を走る車と行く手を阻む信号が現れていた。遠目には駅看板がお目見えするが、駅前の降車場がタクシーやバスでごった返し、車をそばに着けることができない。赤信号で止まりがちになった車内でどうしようもない苛立ちを感じていると母が私の方へ振り返る。 「ここで降りなっせ。ここからは走ったほうが早いけん」 「お母さん」 「なんね」 「……。送ってくれてありがと」  言い捨てるように助手席を飛び出し、駅へ走り出した。
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