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 揚げ物怖いから天ぷらとかできないっていうから今度オレが作るよって言ったけどいざやろうと言ったら、油が跳ねてキッチンが汚れるからやっぱりいいやとかなんなんだよ。「期待してる」なんて言われてその気になった俺がバカみたいじゃないか。そもそもやる気なかっただろう。その日、言えなかったけど仕事用のかばんの中にいれっぱなしだった海老の汁が垂れてかばんの中がえらいことになったんだぞ。結局、臭いが取れなくて新しいかばんを買う羽目になったじゃないか。かばん選びに付き合ってもらったのは感謝している。前のかばんはトラックに撥ねられた時に大分痛んでいたからな。  雰囲気作りに間接照明にしてふたりで酒を飲むのは良いんだが、直前に気が変わるのがめんどうくさい。  お預けになった男の気持ちをおまえは理解できないだろう。その晩、俺が自宅で自身の欲と理性とを抱えてどう過ごすかなんておまえは興味ないだろうな。おれがケガで入院した際に個室だったから見舞いに来てくれた時にも、「看護師さんが来るかも」と中途半端に俺の血流を上げて帰りやがって、身動きできない俺がどれだけ辛かったかなんてわからないだろう。おまえの家で俺らの好きなウイスキーをお揃いのグラスで飲んでるときとか、用意してくれた肴をあてにゆっくりと過ごす時間が戻ってきたときはうれしかった。  外で話してる時の声がうざいとか言うな。めんどうくさい。  腹から声を出しているだけだ。俺の低い声は街の喧騒に飲まれてひとに届かないのだ。おまえの家にいるときは必要ないからそんな発声をしないだけだ。別に新人声優みたいに声を作っているとかそんなんじゃない。おまえがそんなこと言うから最近声を出すのが億劫で仕事に支障が出てきている。退院明けにカラオケに行ったときは散々ネタにして笑ってくれた声がいまは疎ましい。     
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