Chapter1

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「ごめんなさい、今とにかく急いでるんで失礼します」 上司だから邪険にもしづらいので、いつもこうして適当に言葉を濁して逃げているのだ。 今急いでいるのは本当のことだが。 「そっかあ。ま、今度また誘うよ」 いいえ結構です! の言葉を必死で飲み込んで、私は「ではお先に失礼します」と会釈しつつ踵を返した。 いつもこうだ、この会社は需要と供給が見合っていない。 いいなと思う男性には、大抵奥さんや彼女がいてどうにもならない。 逆に言い寄ってくる男性は、全然好みじゃなかったり、たまに外見がよければ、主任のようなチャラ男だったり。 だから私は、もうかれこれ3年間恋人がいない。 もう25なのに、このままずっと独り身だったらどうしよう、と最近本気で不安に思う。 ブーン、ブーン…… エレベーターに乗っていると、コートのポケットの中でスマホが震えた。 『そろそろ駅着くよ。瑠奈は?』 大雅からだ。 「あと10分」 手早く返して、今ちょうど1階に着いたエレベーターから早足で降りる。 今日はこれから、大雅とデートなのだ。 まあ、デートだと思っているのは、きっと私だけなのだけれど。
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