プロローグ

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フロアラグの上に脱ぎ捨てていたジーパンを履くと、大雅(たいが)はローテーブルの前にどっかり腰を下ろし、傍らの煙草に手を伸ばした。 ジッポを開けるカチン、という金属音が、しんとした部屋に響く。 そして火を付けると、ゆっくり吸い込んだ煙を、やっぱりゆっくりと吐く。 ベッドの上でただそれを見ているだけの、この沈黙の時間が一番嫌い。 さっきまでは夢だとでも言うように、熱が冷めきった時間が静かに重くのしかかる。 「シャワー浴びてくるね」 その沈黙を破って私が言うと、彼はこちらに視線を投げて「ん」とだけ答えた。 今日も、いつもと同じ。 特別なことは、きっと起きない。 軽くため息をつきながら、蛇口を捻った。 想定よりも温度の高いお湯が、シャワーヘッドから勢いよく飛び出して、思わず「あつっ」と小さく声を漏らした。 でもそんな声なんて、シャワーの音に掻き消されて、大雅には届かない。 やっぱり今日も、特別なことは起きない。 「んじゃ、俺帰るよ」 バスルームのドアの外から、いつもの台詞。 「うん、おやすみー」 私もいつもと同じ言葉を返して、熱いシャワーを頭から被った。
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