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硝子の中の黒猫
「不香の花 「硝子の中の黒猫」」
ここは何処だろう、
軽く痺れている足から上半身をほどき
ゆっくり体を起こす。
周りを確認すると、見知らぬ神社に私はいた。
境内の廊下で寝ていたらしい私は
何で知らないところで寝ていたのか、
と思ったが、いつもの事なので
あまり気にしない事にした。
境内にも寒さが伝わるように
今は冬の真ん中の頃だった。
辺りには雪が積もり
微かに降っている不安定な雪も
風に揺れ踊りどこかへ
向かっているようだった。
境内と敷地を繋げる階段を降りると
余計寒さと匂いが伝わってきて
余計冬を感じさせてくれた気がした。
冬は嫌いじゃない。
この国の和には雪が良く似合う。
夏のせせらぎと虫の鳴き声、
それも等しく和にとても合う。
でも冬の軋む寒さの静寂、
人通りも少なくなり
一本の街灯が道を照らす。
1年の終わり頃に来る冬は、
今までの季節と思い出を寒さで
停滞させてしまうような。
だからこそ温かいものに気づける。
仕事の帰り道、学校からの帰り道、
そんな中 ふと足を止め、
思い出に耽るあの感覚が、
あれこそが私は 和の形だと、
そんなふうに思っている。
だから私は、冬は嫌いじゃない。
私とは真逆の雪が
私を埋めるように降ってくる。
染め上げる事のない小さな温もりが。
私は嫌いじゃない。
ふと気づくと、神社の奥には
小さな物置のような小屋があるようで
屋根に積もる雪の重みから
今にも崩れてしまいそうなほどに
儚さを感じさせていた。
鍵はかかっていないようで、
簡単に中に入る事ができた。
意外にも中は広く作られており、
部屋の中心には
小さな鏡が置かれていた。
見た事はない筈なのに
懐かしさを感じさせるような雰囲気があり
木で作られた台座に、
埋めるようにガラスが施されていて
少しばかりか恐怖を感じた。
鏡を元に戻し 部屋から出ると、
後ろから崩れる音と共に、
案の定、雪の重みに耐えきれなくなった
屋根は崩れ、小屋は倒れてしまっていた。
私は気にすることなく歩みを続ける。
神社を抜けた頃だっただろうか。
道路の脇を歩いていた私は、
信号無視の車に轢かれ
喧騒の中のシャッター音と
冬の積もる雪と共に白へと帰っていく。
轢かれた時、何か微かに聞こえた気がした。
今までの思い出でも、スキール音でも、
衝撃音でも無かった。
ああ、そうだ、
あの音は確か、
ガラスの、
割れた音だった。
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