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その内、辺りはすっかり夕焼けの赤色に染まり始めます。
公園中を隅から隅まで探したつもりですが、やはりヴェアは見つかりません。
河内さんは、がっくり肩を落としました。
『リクガメから目を離してはいけない』
この出来事は、重い教訓となって河内さんの心にイカリをおろしました。
そこへ、作業を終えた管理事務所の人達が通りかかりました。
「おーい、カメちゃん! こんな時間まで散歩?」
河内さんは、藁にもすがる思いで「ヴェアがいなくなっちゃったんですっ」と言いました。
「えーっ!? いつ? どこで? 草むらとか見た?」
矢継ぎ早に質問され、しどろもどろで答えると、
「それじゃあ、残りはお寺だなぁ。今日はほとんど人を見かけなかったし、あのカメを持ち去るのは無理だろうし・・」
と確信じみた返事が返ってきました。
管理人さんが言う『お寺』とは、公園に隣接している古いお寺のことです。
お寺と公園はフェンスで仕切られていますが、ヴェアが通れるほどの隙間が何ケ所かありました。
きっとヴェアは、このお寺のどこかにいるのだろうと、管理人さんは言うのです。
河内さんも同じ気持ちでした。
雑木林に囲まれたお寺は真夏でもひんやりとしていて、そこから送られてくる風はいつも天然のクーラーのように涼しいのです。きっとヴェアは涼しさを求めて、お寺に行ったのでしょう。
暗くなってきたこの時間は、普段のヴェアのサイクルだとすでに就寝しています。
ということは、寺の縁の下かどこかで寝ているに違いありません。
こうなると、河内さんにできることは「待つ」以外ありません。
明日の朝、お腹を空かせたヴェアが、草を求めてまた公園に戻って来るのを待つほかないのです。
河内さんはお寺の人に事情を話し、リクガメを見つけたら保護してもらえるように頼みました。そして、覚悟を決めて家に帰りました。
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