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猫の仕事
台風が今夜にも地元に最接近するというニュースを見て、あれこれ備えていたのだが、ふと、飼い猫が家の中にいないことに気がついた。
きっちり雨戸を閉めてしまったら家に戻れなくなってしまう。今のうちに探し出して連れ帰らないと。
さて、あの気まぐれ屋はいったいどこにいることやら。なるべく近所の見つかりやすい所にいてくれるといいのだが。
そんな懸念の必要がないくらい、飼い猫はあっさりと見つかった。
玄関先に座り込んで何やら空を見上げている。その様子はやたらと真剣で、名前を呼んでもまるで動く気配がない。
抱えて家に入ろうと近寄った瞬間、まるで敵ににでもするかのような声で威嚇された。その態度に怯み、離れたところで様子を見ていたら、ぐいと身を伸ばした猫が前足で何かを引っ掻くそぶりを見せた。
一瞬その場に、雷でも鳴ったかのような、何かが弾ける音が鳴り渡った。
さっきとは打って変わったご機嫌顔で、こちらを向いた猫がすり寄ってくる。ふと気になり、その前足を見ると、爪に何か黒い物が付着していたが、それはすぐに風に流されて消えた。
直撃したらかなりの被害が出ると言われていた台風が、上陸直前にかなり勢力を弱めたというニュースを聞いたのは、それから数時間後のことだった。
ニュース番組の聞こえる位置で、さも一仕事終えたといった顔つきで、猫は誇らしげに寝そべっている。その姿に、今日はねぎらいのため、貰い物のグレードの高い缶詰を開けてやろうと思った。
猫の仕事…完
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