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その日の帰り道、恋人橋を通っていると、また誰かが髪の毛を風に飛ばしているところを見た。
私はもう気にしていなかったが、その女が去っていくとき、街灯の明かりで、よこ顔が照らされるのを見た。遠目だったが、鬼嶋さんに似ている気がした。
それはまあ、鬼嶋さんだって妙齢の女性だ。恋の一つや二つはするだろう。
でも、鬼嶋さんに好きな人がいると考えると、なぜか、ゾッとした。
暗くて、ねばっこく、まとわりついてくるような陰湿な社内でのようすをほうふつとさせるからだろうか。
そのあと、しばらくして私は気がついた。
鬼嶋さんの髪が、だんだん短くなっていく。
以前は長い黒髪が彼女の自慢だったようなのに、ある日とつぜん、バッサリとショートヘアになっていた。
「わあっ、鬼嶋さん。イメチェン?」
「似合うよ。そのほうが明るく見える」
「いいね。その髪型」
ーーと、女子社員のあいだでは好評だが、どうも私は落ちつかなかった。なぜなら、あのあとも毎日のように、恋人橋で髪をなげすてる女を見かけているからだ。
(まあ、おれには関係ないしな)
私はそう思っていたのだが……。
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