恋人たちが結ばれる橋

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うちの社は空調機やシステムキッチンなどを建築現場に設置する会社だ。大型興行施設やタワーマンションの新築現場への納品がある月は、休みも返上になるくらい忙殺される。 その日も帰りが夜の十一時をすぎ、翌日にまたごうとしていた。 いつもは人通りの多い恋人橋にも人影がない。 (今日は、あの女、いないんだな) 私はあたりが無人なことに安心して、橋を渡っていった。 大昔は木の橋だったという話だが、今は自動車も渡れるように鉄橋になっている。歩行者用の通路をなかばまで渡ってきたときだ。 強い風が一陣、よこなぐりに吹きつけてきた。 私は薄手のコートの前をあわせながら、一瞬、立ちどまった。 そのとき、橋の欄干から、何かがコロリと風に飛ばされた。 目の前に落ちたので、私は思わず、それをながめた。 街灯と街灯のまんなかあたりなので、暗くてよく見えない。 白い虫のようなものだ。でも、この季節にイモムシがいるだろうか? それにイモムシにしては色や大きさが、おかしい。 もっとよく見ようと、かがんだ瞬間、私はギョッとした。 それは、指だった。人間の指だ。 きゃしゃな形から言って、女の指だろう。 風にふかれて、アスファルトの上をコロコロ、ころがる。 まさか、あの恋のおまじないのせいか? 誰かが自分の指を“捧げた”のか? 私は悲鳴をあげて逃げだした。     
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