13人が本棚に入れています
本棚に追加
駅についてから、警察に通報したほうがよかったと思いついた。だが、スマホに手を伸ばして、さらに考える。
もしかしたら、マネキンの指だったかもしれない。あのおまじないのウワサを悪用して、誰かがイタズラしたんだーー
そう思い、私はスマホをポケットにしまった。
ふつうに考えて、たかが恋の成就のおまじないのために、指を切断するなんて、ありえない。
(たちの悪いイタズラするなぁ。本物かと思った)
ところが、翌日。
会社に行くと、鬼嶋さんが青い顔をしていた。貧血ぎみなのか、フラフラしている。好ましい相手ではないが、体調が悪いのはかわいそうだ。資料をダンボールに詰めて運んでいたので、よこから箱をとりあげた。
「顔色悪いですよ。大丈夫ですか? あんまりヒドイなら病院行ったほうがいいですよ?」
すると、鬼嶋さんは青白い顔で、ニヤッと笑った。
何かモソモソ言いつつ、右手で左手をにぎりしめた。鬼嶋さんの左手には包帯が巻かれていた。
むしょうに背筋が寒くなった。
その日から、私は帰り道に恋人橋を通ることをやめた。
まわり道になるが、となりの橋を使うようにした。
だから、何かが“捧げ”られているかどうかもわからない。
でも、社内で見かけるたびに、鬼嶋さんの手の包帯の量は増していった。
最初のコメントを投稿しよう!