京急でいくそばや その一

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 雨の日かもしくはなんらかの理由で自転車にのることをせずに、むすめといっしょにいくそばやがある。もちろん京急にのっていくのであるけれども、上りの品川いきの普通にのっていく。いつものようにいちばん前にのることもあれば、めずらしくいちばんうしろにのっていくということもある。それは、北品川におりれば、うしろの車両の方が改札に近いからでもある。れいのごとくホームにおりれば、バイバイなわけではあるものの、電車のうしろであるため、むすめと、車掌さんはたいへんに近い。ゆきつつすすんでくるものにバイバイというわけにはいかない。おたがいきまりのわるいぐらいの近さの距離である。むすめは、はずかしそうにちいさなバイバイをして、そして車掌さんはさらりとかえしてくる。  改札をでれば、むすめはなれたものである。指をさしさし道案内である。ひとつ踏みきりをまって、旧東海道の方へ手をつないで向かっていく。旧東海道をすこしいき、八百屋の過ぎたあたりを右に折れ、坂道をくだりきると、競馬場から目黒いきのバスが見え、八ッ山の踏みきりへと向かう坂道をのぼりはじめているので、そこにある不規則な五差路の前の信号は赤となっていて、ふたりはあおぎ、北品川の古い公団のかたまり、そのさきのたち誇っているようにしてあるビルマンションを見て、青になるまで、まっている。ここからは、ちょうどまっすぐな道なのに、ちょうどそばやのおもてのところは見えない。青になり、もうひとつさきの青の信号のところになっても、またやはりそこは見えない。なぜそんなに見たいのかというと、そのそばやはひとがまってならんでいるためである。もうひとつの信号もわたり、ひょいと横にでると、ようやく、そこのところが見える。だれもいないとなると、ふたりとも、急ぎ足になる。  そばやのガラス戸をのぞくと、ちょうど会計をすませた先客さんがでてくるところである。あとはテーブルをきれいにかたづけてくれればいいだんどりである。すこしまって戸をひき中へと入っていく。いつもいるよっぱらっているわかめのおじさんが目のみで挨拶し、むすめもぺこりとあいさつしている。空いたばかりのふたり席のテーブル席に腰をかける。まずはさっとウェットティッシュできれいに手をふく。ひらかなを読めるからか、それともお品がきを覚えてしまったからか、いつものとおりの板わさと焼きのりのところを指さしている。
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