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「始発で帰ってコッソリ鍵を開けて
自分の部屋へ入ったら・・・
父が座ってました、泣きながら」
「 ?! 」
「『お前が帰らんかったらどないしよ
と思た』と泣いてるんです。・・・
私が”存在出来ない”この家で
継母と私の間で父も苦しんでるんや
と、初めて気づきました。」
(正義なんかで人の群れは統率ならんもんや)
頷きながらタバコに火を点けた。
「京大、私も行きたかったんですよ、
だってあの夜、ものごっつい
(とてもとても)楽しかったもん」
イルミネーションのせいなんか笑顔がキラキラで俺はドキドキ・・・。
「でもその日、父と相談して大学は
東京に決めたんです。
『東京で仕事の時は二人で家族しよ』
って父は駒込にマンションを買って。
当日は無理でも二人で誕生日、
お正月、先月も先にクリスマスやから
このコートを買うくれて」
さっき店先で頷き合ってた彼女ら親子を
思い出しながらおんなじように、
俺は何べんも頷いた。
「東京でお酒飲みに二人で行くとね、
馴染みのお店で父もね・・・
言うんです・・・」
「なんて?」
「『この子の母親は綺麗やったあ、
別嬪やった!』って」
二人で声をたてて笑うた。
「正月はどうされるんですか」
「三日にまた大阪の女子高で講演を
頼まれてるんでこのままホテルです」
俺は”後腐れ”のある女は嫌いやのに
「なら大晦日、一緒に和歌山の紀三井寺へ
行きませんか?いつも三人で行くんです」
なんか誘うてしもた。けど
「さっき冬馬くんにも誘われました」
息子に先を越されてた。
「なら、来月、出張で東京行くんです。
その時に僕も父上の『この子の母親、
別嬪やった!』を聞いても・・・
よろしいですか」
暖かなキャメルのコートに抱かれた人は
少女のように頬を染めて頷いた。
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