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しばらく待っていると、ようやく彼──“Rhye-ライ-”が出てきた。
“Scaramouch-スカラムーシュ-”活動時のメイクは落とし、素顔にモッズコート&ジーンズのラフな出で立ちで、数人のバンドスタッフたちと話をしているようだった。
「……“Rhye-ライ-”……!」
ただのヒッピーに留まらぬ恋する乙女の顔をして、真理子は彼に駆け寄った。
彼の“Scaramouch-スカラムーシュ-”活動時の“Rhye-ライ-”という名前は、Queenの曲「Seven Sea Of Rhye(輝ける七つの海)」の歌詞に登場するファンタジー世界の名前──作詞者であるフレディが創作したものである──から取ったものだ。
本名の一部をもじったというのも理由の一つだが、彼は数あるQueenの曲の中で「Seven Sea Of Rhye(輝ける七つの海)」が一番好きであり、フレディの詞世界に憧れを抱くきっかけにもなった曲だった。
そんな夢と浪漫の溢れる彼を、真理子は愛していた。
いつものように近寄り、握手とサインを求める。
彼もまた、気前よくそれに応じていた。
銀柳街の裏通りの雑居ビルにあるその往来は、裏道とはいえ飲み屋帰りのサラリーマンやライブ帰りの老若男女の姿が複数見られた。
周りも何事かと振り返る。
ベースケースを背負った長身の男に派手な身なりをした女が話し掛ける構図は、行き交う人の目を引くのだ。
特にライブ帰りで興奮冷めやらぬ女性たちは、真理子の出待ちをきっかけに彼の登場に気付き、きゃあきゃあと列を成した。
ちなみに素顔の彼を見ても“Rhye-ライ-”だと気付くのは、彼のバンド掛け持ちにより素顔が周知されているからだ。
熱烈なファンに囲まれ声を掛けられる彼は、スターのようにキラキラと輝いていた。
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