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と、とにかく、話をそらそう――そう思い、それなに? と私はお兄さんの持ってきたダンボールを指さした。
「これかい? さっき言った、面白いものだよ」
お兄さんがボトルをどかしてダンボールを開け始める。その途端、お兄さんの周りのさくらんぼのにおいが強くなった。が、それはお兄さんから漂うものじゃなかった。
ダンボールの中。においはそこから来ていた。
「さくらんぼ?」
中を覗けば、そこはたくさんの赤い実でいっぱいだった。スーパーで売られている物でだって、こんな入っているのは見たことがない。
その量におどろいていると、お兄さんが、そう、さくらんぼ、とうなずいた。
そうして、空っぽのボトルを自身の顔の横に持ち上げたかと思うと、次の瞬間、お兄さんの口から、さらに私をおどろかせる言葉が飛び出た。
「さて、恵音ちゃん。僕と一緒に、お母さんのためにお酒を作ってみる気はないかい?」
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