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瞬間、それまで動いていたはずの思考が、ピシリと軋むような音をたてて止まった。
『僕』――?
今、こいつ、『僕』って言った。
『私』を見て、『僕』って。
確かに、自分の見た目はウソでもかわいいと言えるものじゃない。
お金がないから、と適当に母さんが切ったボサボサの短い髪に、何年も着続けられそうだからという理由で買われたぶかぶかの黒いパーカー、それから別にファッションでもなんでもない、破れた跡だらけのジーンズ――。
が、それでも、まちがえられることに慣れることはない。
嫌なものはいつまでもたっても、嫌なものだ。
あわてたように母さんが私のことを説明し始める声がした。途端、え、と彼の目が丸くなる。
「ご、ごめんね、『女の子だったんだ』ね。間違えてごめんっ」
『女の子だったんだ』――それを聞いたその瞬間、ピシリ、ともう一回私の頭が音をたてた。
なんだ、それ。
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