第3話

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 チラリと、いまだにうなだれているお兄さんの姿に目を向けながら、私は心の中でそう呟く。  あのチェリー事件(勝手に命名)の次の日――つまりは、今日。  なぜか私とお兄さんはベランダ越しに話しをしていた。ベランダ越しと言っても、隣の部屋とはあまり距離がなく、大人ならば手を伸ばせば簡単に向こう側に渡れるだろうぐらいの距離しかない。しかも、仕切りもないから、隣のベランダの様子はまるわかり状態だ。  話しかけて来たのは、お兄さんのからだ。放課後、学校から誰もいない家に帰って来たはいいものの――母さんは平日休日問わずのパート戦士の為、日中はほぼいない――、やることもなくゴロゴロと床の上に転がっていたそのとき、突然、窓がノックされた。 『いま、大丈夫?』  おどろいている私に向かって、隣のベランダから身を乗り出して来たお兄さんはそうたずねて来た。もちろん、昨日のこともあるし、最初はなにか言われるのでは、とビビりながら窓を開けた。なに? と強気に言ってはみたけど、その声もふるえまじりだった。  そんな私にお兄さんは、別に取って食おうってわけじゃないから、そんなにビビらないでよ、と困ったように笑いながら言った。
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