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第4話
お兄さんには彼女がいる――らしい。
それに気づいたのは、お兄さんと話すようになって一か月ぐらい経った、とある夜中のこと。
その日、私はのどのかわきで目が覚めた。
いつもなら我慢するのだが、その日に限っては出来なかった。隣で寝ている母さんは、いつものように酔っぱらったまま、気持ちよさそうにいびきをかいて寝ていた。半ば私に抱き着く形だったけれど、これなら動いても起きないだろうと思い、その腕から抜け出した。
つけるカーテンもないので、部屋の中は窓から入る月の光で薄らと明るい。その中を静かに歩きながら、台所と呼ぶには小さすぎるそこへ向かった。
と、そのとき、ふいに部屋のかべの向こうから声が聞こえて来た。それは小さな笑い声で、確かにいつも聞いているあのお隣さんの声だった。
かべが薄いせいで、隣の物音が聞こえてくるなんてのは、このアパートじゃいつものことだ。特に、両隣を部屋で囲まれている私の部屋では、右からも左からも音が聞こえてくる。
(……テレビでも見てるのかな)
というか、今日は仕事は休みだったのだろうか、と眠気が少し残る頭でぼんやりと考えながら、かべの前を通り過ぎようとして、
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