第5話

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第5話

「お酒って言っても、そんな凄いもんじゃないよ。『果実酒』って言って、果物本来の味を引き出しただけのものだ。果物の漬物ってとこだよ。ただし、メインとなるのが実の方じゃなく、果汁っていうのが漬物との差かな」  言いながら、布を使って、お兄さんがさくらんぼをきれいにみがいていく。慣れているからか、あまり時間がかからずにみがき終えては、次からか次へとボトルの中にさくらんぼを入れ、お皿の上に盛られているさくらんぼの山から新しいのを手に取っていく。  対し私はと言うと、お兄さんが五個みがいている間に一個みがきき終えればいい方だ。そんな差にムカついて、思わずさくらんぼをみがく手を強めると、そんなに力を入れると潰れるよ、とお兄さんに笑われ、さらにムッとするハメになった。 「ゆっくりでいいよ。最初ってのは、誰だって出来ないもんだ。僕だって最初は時間がかかったしね」 「お兄さんも?」 「そ。というかまぁ、僕の場合は、この量のさくらんぼの処理の仕方を考えるところから、まずは時間がかかったけど」  こんなに送られてくるとは思わなかったからさ、とお兄さんが苦笑いをする。
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