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慌路/クライミチ
私は五本の道路が入り組んだ暗い交差点の片隅で途方に暮れた。
やばい、場所がわからない。
待ち合わせは二十時なのに、今は二十時半。私は十九時半からこの界隈を行ったり来たりしていた。
地図はある。その通りに来たはずなのに、目指す飲み屋はそこになかった。
地図を横に逆さまに三百六十度回しつつ自分も四方八方向いてみたが、どの道がどの線を指すのかわからなかった。
ネットで調べたり連れに電話で聞くのは、頑固な私にはどうしても不本意でできなかった。
大通りに出る。角のコンビニの白い光が目に痛かった。
何度もここから地図を手にやり直してるから、もしかしたら店員さんに不審がられているかも知れない。恥ずかしい。
店員さんが私を見ていないか確認しようとしたとき、入り口の横の窓ガラスに貼られた紙が目に入った。あれって、もしかして地図じゃないだろうか。
「いらっしゃいませー」
歩き疲れたせいかドアが重く感じた。暖かい店内。人の声を聞いてほっとする。
「地図、見せて下さい」
何も買わないことに罪悪感を感じてる場合じゃなかった。挨拶だけして、貼り紙の地図に向かう。
「あ、どこをお探しですか?」
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