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えなはこんな場所に来るのは初めてな様で、行き交う人々や、見えてくる建物やイルミネーションを見て胸を弾ませていた。私は初めてじゃなかったけれど、少女のそんな姿を見ていたら、同じような気分になってくるーーーー。私も小さい頃、お母さんに連れられてケーキを買いに行ったっけ。あの時見た、大きなツリーとお母さんの手のぬくもりは忘れられない。今でも、掌の芯から蘇ってくる。この女の子も、そうなのかな?
「ゆきだねぇ」
えなは、はらりと落ちてきた雪の粒を掌に収めて、みるみるうちに溶けてゆくそれを見ながらうっとりと呟いた。相変わらず空は灰色だった。
「でも、くもってるねぇ」
私が彼と行くつもりだった、大きな公園を目の前に、えなは空を見上げて囁いた。
「うん。えなの髪とは全然違う色だね。えな、その髪はーーー」
「お母さんのものだよ」
えなはにっこりと、?を吊り上げて笑った。本当に、この少女は白かった。
「お母さんも、髪は白いよ。でもね、あたし、お母さん、見たことないんだ」
「え…?」
思わず立ち止まってしまう。人の流れは止まらない。先に行きかけたえなは立ち止まり、手を離して後ろ手を組んで、天使そのものの微笑みを見せた。だって、言ったじゃない、えな。あなたはお母さんを探してるって……。
「胡桃、あたしね」
はっとした時には遅かった。
私の目の前に、えなはいなかった。
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