第一話 モブキャラ喪女その名は薔子

8/8
45人が本棚に入れています
本棚に追加
/150ページ
 電車に乗ると、まずは邪魔にならぬよう端の方でひっそりと立つ。場所が空いていない時は仕方がないが、その場合はなるべく邪魔にならないような場所でひっそりと立つ。鍛えているお陰でつり革につかまらないでも安定して立てるのは利点だ。  混雑して周りの迷惑になる場合でなければ、携帯で漫画や小説を読むのが日課になっている。学園から自宅最寄り駅までおよそ40分、乗り変えは一度。夢中になって読んでいるとあっと言う間に乗り過ごしてしまうのだが……。何度もやらかしている事である。  このように薔子は、モブキャラ喪女としての分をわきまえて生活を送っていた。 (おっ! これってヤキモチじゃん。やったぁ、意識し始めた!)  涼し気な表情で携帯画面を見つめながら、漫画の世界にどっぷりと浸かっていた。今読んでいるのは連載中の少女漫画で、高校性のモブキャラ女子が、学年一のモテモテ男子に秘かに恋をしているお話だ。ヒロインは、最初から片想いだと諦めているのだが、男子の方も何故か彼女が気になって……という感じで、最終的にはくっつくだろう、と予測のつくモブ王道恋愛物らしい。周りを固める脇役が、ハイスペックなイケメンや美少女という今までと真逆のキャスティングだ。ここ数年、着実に増えて来ているストーリーである。 (普通、この手の物語のヒロインはブスで地味設定にも関わらず可愛らしい、て言うのがおきまりなんだけど、これは本当にヒロインが地味で不美人に書かれているところが萌えキュンポイントよね)  と薔子は分析している。そろそろ乗り変えの駅だ。栞を挟んで携帯をバッグにしまった。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!