第一話 モブキャラ喪女その名は薔子

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 ーーー2016年初夏、都内ーーー  葡萄そのものをかたどったガラスの房がいくつも連なる豪華なシャンデリアが、二十畳程の部屋に二つほど天井より下がる。白い壁、東側に大きなガラス窓が、柔らかな日差しをやんわりと受け止め、部屋に届けている。上品なレースのカーテンと遮光性のミントグリーンのカーテンが、両端でしっかりと赤い造花の薔薇で止められていた。フローリングの床は艶々としており、手入れが行き届いている。 「……モブとは、メインキャラ以外の名も無きその他大勢のキャラを示す。最近では、役名も特に無く、存在感の無いキャラの事を揶揄する場合にも使用される。……なるほどな」  男の呟く声が静かに響く。ダークグリーンのソファーにゆったりと腰をおろした、白のワイシャツに黒のスーツ姿の長身細身の男。その長い両足をガラステーブルの上に乗せ、パソコン画面を見つめている。男は更に続けた。 「喪女、『もじょ』または『もおんな』と読む。男性と交際した経験が全く無く、愛を告白された事もない。つまりモテない女性を指す。ライトノベルや漫画等では、地味な容姿に根暗で太目、対人関係が苦手でネガティブ思考自虐的、オタク女子なイメージで描かれる場合が多い。故に穢れなき身である女性。……なるほど」  そして大きく溜息をつくと、考え込むように右手で顎を覆った。
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