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彼は精一杯の勇気を振り絞り、言葉を紡ぐ。
「その……蕾ちゃんてさ、君の妹だよな?」
「はい」
彼女はあくまで沈着冷静だ。彼の頬に、益々紅が差す。
「あ、あのさ……つ、蕾ちゃん……その……つ、付き合ってる人とか……」
「妹は芸能活動に差し障りが無いよう、特定の相手を作る事は禁止されていますので」
「え……」
彼女は彼が何を言い出すのか予測がついていた様子で同時に淡々と事実を告げた。絶句する彼。彼女の眼鏡の奥の瞳は、冷たいくらい冷静だ。
「そういう事なので、すみません。誰であろうと無理なんです。ちなみに、姉も同じです」
と、まるで暗記した台詞を言い回すように慣れた様子だ。
「どうかお気を落とさぬよう」
眼鏡の中心を右人差し指でクイッと上げると丁寧に頭を下げ、その場を立ち去る。呆然と立ち尽く彼がその場に残された。
彼女の名は武永薔子17歳。美男美女の両親は俳優、四つ年上の美人の姉、麗華も女優。一つ年下の可愛い妹、蕾はアイドル。華やかなる芸能家族の一員だ。そして薔子はそんな家族たちの中で真逆を行く、自他(?)共に認めるモブキャラ喪女なのであった。
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