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病気が進行してゆくにつれ悠花は人ではなくなってしまうのだ。人であることすらその頭の中から消え去ってしまう。終末期は必ず訪れるのだしそれを回避する術は何もない。それが今の医学の限界なのだろう。
外はしんしんと雪が降っている。音のない世界。真っ白な銀世界は幻想的なまでの美しさを醸し出していた。不純物の混ざらない完璧な白銀の世界。まるで悠花の頭の中にも雪が降り積もっているかの如く、全ての記憶を真っ白な雪が美しく消しているようだった。
人を忘れた悠花を海斗はどう受け止めてゆくのか?そして子供達にはなんと説明するのか?その時が来てみない限り答えなど出せる筈もない。けれどその時は確実に迫ってきている。生まれたての赤ちゃんの様に何も知らない何も出来ないそんな真っ白な悠花と、海斗は遅かれ早かれ向き合わなければならないのだ。
なんて残酷な病気なのだろう。記憶の全てを奪ってしまうそれがアルツハイマー症という病気なのだ。
そう、あの真夏の夕暮れに忘れて来た悠花のバッグのように、もしかしたらあのベンチに悠花の記憶も置いてあるかも知れない。
[完]
神崎真紅
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