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私は震える手で持っていたバッグからスマートフォンを取り出し、そのメモに書かれていた数字を押した。まだ辛うじて電話の使い方は覚えていたようだ。
二度目の呼出音が切れて、誰かが出たらしく電話の向こう側から「ゆうかか?今どこにいる?」と、男の人が言った。
私の名前が「ゆうか」だということを、この電話の向こうの人は知っているのだ。
私が知らない私の名前を呼んで、その声からも容易に解るくらいに心配している。
きっと、私の家族とか、そんな感じなのだろうな。
「あの……どこなのか分からないの」
すっかり日も暮れて、辺りを夕闇が支配してゆく。
「ああ、そうだったね。ごめんね、難しい事を君に聞いて……うん、GPSで君の居場所は分かったよ。直ぐに迎えに行くから、そこから絶対に動かないで待ってて」 そう告げて、電話は切れた。
ほぅっ、と深呼吸して、悠花という名前らしい私はベンチに座り直した。
夕闇の中、ブランコや滑り台などの遊具のシルエットだけが浮かび上がって見える。
遠くの方から電車の走るガタゴトという音が聞こえ、すぐそこにある家から漂ってくる夕飯のカレーの匂いが悠花の鼻を掠める。
程なくして、公園の入り口に白いクラウンアスリートが滑るように入って来て止まった。
そこから降りて来た男の人が、一直線に悠花の元へ走って来た。
「良かった、何もなかったね」息を切らしながら、その人は言った。
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