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どれ程歩いただろうか。
時間は刻一刻と過ぎていく。
「……まずいな、」
勢いに任せて白竜学園を飛び出した俺だったが、いかんせん時間が時間だった。
日が暮れ始めたのである。
この広大な領土をたたえる白竜学園の敷地内は、侵入者を拒む難攻不落の城のようでもあるが、中に居る者を外の世界に逃がさないようにするための牢獄だったのかもしれない。
しかし俺がそんな決定的な事実に気付いたのは、もう足下が見えないくらいに夜の帳が降りてしまってからだった。
そして更に悪いことに、ここは学園の周りを取り囲む樹海のまっただ中である。
帰り道すらもおぼつかない状況だ。
するとどこからか……
……ワオーン……
何か犬科の動物の遠吠えが聞こえたような気がした。
まさか、狼?
いやしかし、ニホンオオカミはもう絶滅したと聞いたことがあるし、もしかしたら野犬か何かかも知れない。
どちらにせよ、出来れば遭遇したく相手である。
もしこの暗闇の中で襲われでもしたらひとたまりも無い。
多分、餓えた野犬共は俺の喉元を噛みきり、抵抗出来なくさせたところで生きたまま俺の柔らかい内臓を引き摺り出し……
「うわぁぁぁ!!嫌だ~!!戻ろう!!戻ります!!来た道を引き返しますよ!!」
自分の脳内に広がった自虐的な妄想、というか残酷な予想が、酷くリアルでむごたらしいものだったので、俺は自分の愚かな思考回路に悲しくなって思わず叫んでしまった。
「ランランラン♪帰ります~、楽しい白竜~愉快だぞ~、美味しいご飯が待ってるぞ~…」
来た道を引き返しながら自作の歌まで披露する始末である。
しかし、これはそう、月並みな言い方だが、「時既に遅し」という事か。
ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……
荒々しい息遣いが間近に聞こえる……
ガサガサガサガサ…
俺の周囲には、おびただしい数の闇色の獣達が集合していた。
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