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俺は見た。
城が歪んでいる。
「なに、これ……?」
白竜学園の誇る尖塔の先は、そこにまるで蜃気楼があるがごとく揺らいでおり、所々の構造がとても危ういように見えた。
城は今にも崩れ落ちんとばかりに大きくたわんでおり、支えの無い木の枠組みを手で押したように傾いて、そしてあちこちに巨大な裂け目が見える。
「大体、おかしいと思っていたんだ。白竜学園でカロン先生以外の先生に会ったことがなかったし、今朝教室を覗こうとしたら内側から鍵がかかってて中に入れなかったんだ。ガラスごしに人影は見えるのにな。」
そう、俺が白竜学園の門にたどり着いた時点から、随所に綻び(ほころび)が表れていたんだ。
誰もいない守衛室は勿論そうだが、あの豪華絢爛な庭だって、まるで何年もの間誰にも手入れされて無いかのように草木が生え放題だった。
それらが意味するのは何か。
「……つまり、いやでも、もしかして……それならば俺達は今まで一体何処にいたって言うんだ……」
ここは白竜学園ではない。
ほぼ確実に、カロン先生一人で創り上げた特殊な空間なのだろう。
そう、そこがネックなのだ。
この奇怪な空間の製作に、カロン先生と以前から知り合いだったであろうこの蒼い髪の少女、海風明日香が無関係であると、俺には断言出来ないのである。
彼女の素振りを見る限りでは、心の底からカロン先生の事を信じているように見えるし、俺にも大変親切だった。
しかし俺には解らない。
今隣に居る彼女が一体何を考えているのか。
今、目の前にある現実にどう対処すれば良いのか。
誰か、教えてくれ。
海風明日香は“死神”なのか、もしくは本当に“天使”であるのか。
信じたあげくに闇に引き摺り込まれるのがオチなのか。
それとも、信じなかったが故に俺は全てを失うのか。
天使か死神か。
二択。
白か、黒か。
……表面的には俺の優勢。
しかし次のターン。
ソレがひっくり返れば俺の負け。
……オセロ…か……
しかし、一度ひっくり返ってしまえば、それは“白”から“黒”へと一瞬にして変化する。
そして明日香は歪んだ城の門に手をかける。
……ポキッ
「あっ!」
…取っ手が取れたよ、先生?
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