57人が本棚に入れています
本棚に追加
鬱々とした淀みから少しだけ顔を出したおかげで目覚めがいい。白井の生活拠点を知ることは俺に安定をもたらした。思い出や想像の中ではなく白井はちゃんと生きている。毎日白井タウンを検索して情報を集めてしまうだろう。でもいい、グズグズ泣いているよりずっとマシだ。
鼻歌まじりに会社に着くと小さい事務所は騒然としていた。わんわん怒鳴る声と集まっている人の群れ。どういうこと?
「あ、黒木!」
坂井が走り寄ってくる。その表情は暗く青ざめていた。
「社長が金を持って逃げた」
「嘘やろ?」
「まじやが」
「え?え?給料は?住んでいる部屋だって会社のもんやし。ええ?」
「部長と話をしたいっちゃけど債権者の対応で一杯一杯」
坂井と俺は何もできることがなくそのまま帰宅した。
ドラマのように突然会社がなくなった。たぶんここに住み続けるのは無理だろう。会社の持ち物件だから債権者にもっていかれる。
俺はしばし考えた。解雇や倒産の場合失業保険はすぐ支給されると聞いたことがある。今は梅雨明けの夏。真っすぐな道と広い大地。よし決めた、白井に会いに行こう!何とかなる!待ってろよ、白井タウン!(と……白井)
最初のコメントを投稿しよう!