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疲れている、腹も減っている、寒い、つらい。ノープランのしっぺ返しを食らいながら白井の学校の横で待機。学校って何時に終わるんだろ。1時すぎに生徒たちがバラバラ下校を始めた。今日は短縮授業?だとしたらラッキー。
悪いと思ったが白井にメールを送る。出て来てくれるだろうか。返事もなくスルーされるだろうか。握りしめているスマホがヴーヴー震える。急いでタップすると白井だ!返事が来た!
『アンタ、バカでしょ』
そのとおり、俺は馬鹿です。
生徒たちとは違う玄関からこっちにむかってくる男。白井だ、白井だ、白井だ!どんどん近づいて来る。どうしよう、ああ、どうしよう!白井だ!白井だ!
「何なの、いったい」
白井は何も変わっていなかった。相変わらず白くて眩しい。
「あ、ええと社長が逃げて会社が潰れたとよ」
白井は眉をひそめた。まさか嘘だと疑われている?
「失業保険でる間にやりたいことをしたいとよね」
「それで?てかアンタ寒いんだろ?唇がブス色じゃん」
「なっ!!いきなりで悪いと思っちょるが!じゃけんブスはないやろ!」
白井はフワリと俺の唇を親指の腹でなぞった。
「違うって。口が紫色に変わってる。こっちではブス色って言うの」
「ちょすと同じく方言やっちゃね」
白井は腕を組んで俺をひたと見据えた。ごめん、言葉のチョイスを間違った。ふうと息を吐いて白井を見る。真剣に見えていますように。
「俺……本当の冬を知らないんだ」
少しポカンとした後白井は半笑いの笑顔を浮かべた。ずっと見たかった白井の半笑いに、俺の目元がジンワリする。
「北海道をなめるなよ。7月だけど今15℃だ。一昨日はストーブ焚いたんだからな。車のあとついて来いよ。風呂に入って体温を取り戻せ」
俺はコクコク頷いてメットをかぶりゴーグルをはめる。グズグズ泣いている顔を白井から隠すために。
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