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「白井……嬉しくて泣きそうや」
「あ~~もう、こんなところで泣くなよ」
「じゃけん……うう」
白井はグイと俺の顎を掴み視線を合わせた。お、何?こんな所でキスしちゃうの?そんな俺の予想は見事に外れた。教師がこんな所でキスするはずがない。
「クロ、泣くな。鼻水が凍って窒息する。涙が凍って目が開かなくなる。無理やり開けたら睫毛が抜けるぞ。泣くな」
「えええ!」
鼻水が凍っても口で息ができる。だから俺は瞬きをパチパチした。高速で繰り返せば凍る暇はないはず。白井は半笑いの笑顔。俺はこの顔に弱い、すこぶる弱い。
「アンタ、バカだね。凍るわけないっしょ」
あああ!好きって言われた!
「涙ひっこんだ?」
「お、おう」
「これ早く終わんないかな。俺はオバカさんを早く喰いたい」
ゾクゾクした。真面目なセンセイがいけない男になる瞬間。その先を想像するだけで体温が上がる。
「これもう見らんでいい。ホテルに帰ろうや」
白井はネックウォーマーを引っ張り上げて俺の口を隠したあと人差し指で唇の輪郭をなぞった。そのエロい触り方にいけない場所が大変なことになる寸前。
「そうだな。雪まつりは来年もある」
白井と何回雪まつりに来られるかな。俺はその先を考えるのはやめた。だって先のことはわからないから。俺は「何とかなる」を、白井は「何とかする」を続ける。そうして頑張ればきっと二人は一緒にいられて何回でも雪まつりを見られるはずだ。
「地元じゃできないからな」
白井はそう言って俺の手を握った。手つなぎデートというより歩くのが下手な俺を手助けしているようにしか見えないだろう。
「白井のこと、てげ好きやっちゃが」
白井は嬉しそうに微笑んだ。白い雪の中で白井は輝いていて綺麗。宮崎で見たどんな白井より今が一番眩しい。白井を追いかけて来てよかった……。
「クロ、帰るよ」
返事の代わりにギュウと握った手に力を込める。一緒に帰ろう、そして俺の所に帰ってきて。俺も白井の所に必ず帰るから。
南国でも北国でもどこでもいい。俺の帰る場所――それは白井の居る所。
END
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