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「あの……」もう一度声を掛けながら柵に触れた。
コンクリート塀で囲まれた一軒家。築30年は軽く超えている2階建ての建物の玄関前。
柵に掲げられた不動産屋の看板を見る限り、売り物件だと想像できた。
錆びた鉄柵を押し開けて中に入ると、薄っすらと積もった雪の下には砂利が敷かれている。
その砂利の上に横たわった人にも、若干雪が積もっていた。
「大丈夫ですか?」
どう考えても大丈夫じゃない状況だが、他にどう声を掛けていいか分からなかった。
グレーのパンツスーツに黒いコートを着た女性。
肩先まである髪はじっとりと湿っており、顔の大半を隠している。
「あの……」
声を掛けた後、じっとりと湿った髪の色が明らかにおかしいと気付いた。
雪で湿ったとしてもこんな色にはならない。
じゃあ…別の何かで湿った事になる。
「まさか…血……?」
思わず尻餅をつきそうになって立て直した。
塀の間際まで後ずさりすると、ハンドバッグから携帯電話を取り出した。
これがこの人のいたずらじゃないなら、私の行動は間違っていない…そう言い聞かせて―――。
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