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五十嵐に対してはいつも自然体で接する彩香。しかし、野本に対しては敬語が抜けず、どこかぎこちなかった。
それが『一緒に過ごした歳月の違い』と、言われたらそれまでだが、どう考えたってそれじゃ納得できない距離感だと思っていた。
別に五十嵐が悪いわけでも、彩香が悪いわけでもない。
ただ、なんとなく埋められなかった距離。
それが一緒に住むことによって埋められてきている気がする。
カウンターキッチンからリビングでDVDをセットする彩香の様子を見ながら電気ケトルにお湯を汲んでスイッチを入れると、インスタントコーヒーを準備する。
札幌に引っ越してきてから忙しくてコーヒーメーカーを買いに行けていなかった。
ここ最近はインスタントコーヒーばかりで、彩香が言うようなおいしいコーヒーなど飲んでいない気がする。
何か気になった様子の彩香がDVDのパッケージを見ながら首を傾げる姿を見つめ、野本はしばらくボーっとする。
こうやって彩香の行動を見ているのが好きだったりする。
たまに、急に顔を上げて「あっ」と、叫ぶ時とか、思わぬ行動に笑ってしまったり……。
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