いつのまに

1/15
516人が本棚に入れています
本棚に追加
/333ページ

いつのまに

「まずは今井(いまい)千裕(ちひろ)ですね」 運転席に座った五十嵐がナビを確認しながら野本を見た。 「ゲイバー…って五十嵐くんは行ったことありますか?」 「は?俺が何しに行くんです?」 「なんでもいいですよ。聞き込みでもプライベートでも」 「ありませんよ。どこに在るかも知らないですし」 何が悲しくて野本とこんな話をしているのだろう…と、思いながら、五十嵐はハンドルを切った。 つい数か月前に好きな女に告白したら玉砕。 自分を振った女は現在、野本と付き合っているという事実があるのに、よりによってゲイバーの話とは……。 出逢いを求めるにしても複雑すぎる場所であり、この話題に触れるには野本との関係も複雑すぎる。 「彼はずいぶん裕福な家庭で育ったみたいですね。父親は建設会社の社長だったみたいですよ」 「へえ……。金持ちの坊ちゃんって毎日パーティー開いて女はべらせてるイメージですけどね」 「五十嵐くんも相当時代に流されてますね……」 ここ最近のニュースでは有名大学の学生がとんでもない事件を起こしている。女性を傷つけても何とも思わないのは、金で片が付くと思っているからだろう…と、たいていの人間は考えてしまうだろう。お金持ちに対する偏見はこうやって生まれるのだろうか。
/333ページ

最初のコメントを投稿しよう!