雪山の記憶

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「やっぱりやめとけば良かった」 後悔先に立たずとは、この事だ。 滑り始めて間もなく、突風に吹き付けられ、ニット帽が飛ばされた。 今にして思えば、ニット帽の一つや二つ、どうでも良かったのだが、その時の俺は違った。 飛ばされた方を見ると、ゲレンデから少し下がった所に林があった。 その合間に、俺の黒いニット帽は落ちていた。 よせばいいのに、俺はその白い海に浮かぶ一点の黒を目掛け、慎重に滑り降りて行った。 結果、運悪く、というか、案の定、俺は足を滑らせ――いや、この場合は、『スキーを滑らせ』が正解か? ――まあ、どっちでもいいが、そのまま下へと滑り落ちてしまったのだ。
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