雪山の記憶

6/19
前へ
/19ページ
次へ
どのくらいそうしていただろうか。 身体中を取り巻いていた風が、少し柔らかくなったような気がして、俺は恐る恐る顔を上げた。 フードの下からそっと覗くと、まだ風は吹いているものの、視界はかなりクリアになっていた。 「落ち着いたか」 俺は内ポケットをまさぐると、スマホを取り出した。 「圏外……」 唯一の命綱が、いとも簡単に切断されてしまった。 こんな時、文明の利器など何の役にも立たない。 途方に暮れて辺りを見回すと、前方に薄っすらと建物が見えた。 レストランかも知れない。 俺は急いでそこへ向かった。 スキーもストックも、何処かへ行ってしまったようだ。 きっともう見付からないだろう。 ニット帽も加えるとかなりの出費だが、仕方がない。来年また新調しよう。 そんな事を考えていると、ようやく建物の全容が明らかになってきた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加