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閉店時刻の夜8時。喫茶店「Blue Thoroughbred《ブルーサラブレッド》」のオーナー・福田祐一は看板の電源を抜いて店内へと引っ込めた。
「ふぅ……」
福田はため息をつく。脱サラして35歳の誕生日に自分の店を開いたはいいものの、それから3ヶ月閑古鳥が鳴く日が続いているのだ。
レジの売り上げは今日一日で7200円。今日売れたのは900円のオムライスが4つと一杯400円のコーヒーが9杯だけ。電卓を叩かなくてもわかるくらいの数字だ。とてもとても店をやりくりできる金額ではない。貯蓄も急速に減り続け、このままでは半年……いや、3ヶ月もつかどうかも怪しいところである。
ドアの前に引っ込められた看板にはダークブルーの馬が夕焼け空に向かって翔ぼうとしている姿が描かれている。福田はそれを寂しそうな目で暫し眺めた後、テーブルの拭き掃除を始めた。
一通りの作業を終えた福田は店の鍵を閉め、店の近くにある駅へと向かう。駅に向かう途中では国宝ともなっている神社・住吉大社を目にすることができる。しかし今の福田にとって神様は、いない。
「ふぅ……」
福田は再びため息をつく。その声は冬の足音が聞こえるような寒空へと舞っていった。
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