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次の日も福田はいつもと同じように11時に店を開け、料理をつくり、接客をする。そして店内にはランチタイムになってもいつもの通りちらほらとしか客は見えない。
「いつもありがとうございます」
福田はレシートとお釣りの100円を男に渡すと笑顔を見せた。男はこの店の常連客。いつもランチの時間帯に来てはオムライスを食べて帰っていく。
「なぁ、マスター」
男が突然福田に声をかけた。
「どうされました?」
「この店、儲かってるか?」
「いやーなかなか厳しいですねぇ」
不意な質問に多少戸惑いながらも、福田は笑顔でそう答える。
「そうか……もっと繁盛してもいいと思うんだけどなぁ。オムライスも絶品だし」
「そうですか。ありがとうございます」
「それにほら、ここって立地もいいだろ?ほら、住吉さんだって近くにあるじゃないか。初詣のときとか花見のときとか、人でいっぱいになるはずだよ」
「でもねぇ、なかなか……」
福田はほんの少し渋い顔を見せた。この店が赤字続きなのは隠しようのない事実なのだ。賑わっていてあたりまえの時間帯にこうして男と立ち話ができるという状況がそれを雄弁に物語っている。
「あのさ、1つ考えがあるんだけど、乗らないか?」
笑顔を浮かべる男とは対照的に、福田はポカンとした表情を浮かべた。男はまっすぐ福田を見つめながら話を続ける。
「俺はこの店と、この店のオムライスが好きだ。だから無くなってほしくないんだよ。勿論、アドバイス料も含めて一切金を貰うつもりはない」
金は貰わない。この一言がさらに福田を揺さぶった。本来、どこの馬の骨かもわからない1人の常連客の店に関するアドバイスなど聞く耳を持つ必要はない。でも今は状況が状況。背に腹はかえられないのだ。
「本当に無料なんですか?」
「もちろんだ。俺はこの店のオムライスを味わいたいだけだからな」
そう話す男の顔を見ながら、福田は首を縦に振った。
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