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この困った教え子とは3年間担任としてクラスを共にしてきた。クラス決めのときこいつが俺に絡んでくるのが分かっててあえて一緒にしたのではないかと今も疑っている。
まぁ悪いやつではないし嫌いでもない。ただ…………生徒と教師、子供と大人、18歳と30歳、考えれば考える程"差"は出てくる。夢見る少女の一時の気の迷い、高校卒業と同時に醒めてしまう思いなのではないのかと………「好き」だけで進める恋は多くない。
「先生?」
笠原の声に我に返る。
「ねぇー、なんでダメなの?あたしのこと嫌い?なんだかんだでいつもはぐらかしてさー、だから踏ん切りが、つかないの」
視線が俺に突き刺さる。強い眼差しとは反対に小さく弱々しくなっていく声。笠原の声は震えていた。溢れるものを堪えるような一呼吸、そして。
「先生」
いつになく真剣味をおびた硬い声に笠原と目を合わす。すると、笠原はうっすら微笑んで。
「やっと、ちゃんと見てくれた。………………先生、好き。これから先卒業しても先生と一緒にいたい。お願い、付き合って下さい。」
そう言い切り、口を閉ざし俺を見つめる。返事を待っている。
分かっている。俺はきっぱりと断るべきだ、笠原との様々な"差"が全てだ。それに30歳のおっさんよりも年が近くいい奴はそこら中に転がっている、今は見えてないだけだ。断る理由は十分。
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