そこに佇むのは

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 彼女が立っているのは、高層ビルが建ち並ぶ中に、ぽっかりと取り残されてしまったような古い煙草屋の軒先だ。  大通りの交差点を向いた角という中々の良い立地だ。軒先は残念な仕様で、色が抜けて、ぼろぼろとした煉瓦色のビニル素材のようなものが、ぐったりと垂れている。  そんな煙草屋は、5階建てのかつては流行っていたのであろうかと、想像すらできない寂れたコンクリート造りの1階にちんまりと店舗が構えられていた。過去形だ。  お気づきの通り、煙草屋という存在はすでにない。閉店していて、シャッターは固く閉じられている。  そんな廃れた元店舗の前で、彼女はずっと立っている。立ち続けている。
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