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「祖母が日本から持ち込んだものです。祖母が作った貝の潮汁を気に入った当時の料理長がサラベナ料理の中に昆布だしを取り入れ、様々なレシピが誕生したと聞いています」
海岸線の長いサラベナの地域料理は魚介類が中心のため、日本の味付けと相性がよかったそうだ。
日本的なたんぱくな味の中に、時折東南アジアらしい風味の強いスパイスが混じり、よいアクセントになっていた。
おいしいと腹の底から感じながら、栞はふとカイトの横顔を覗き見る。
日本で見たときとは違う。
再会したときには、緊張と鬱屈とで打ちのめされた顔をしていたのに。
なにか憑きものでも落ちたような。
リラックスしているのに、自信に満ち溢れているような。
栞は手を止めて、その顔に見入った。
「どうか、しましたか」
視線に気付いたカイトがやさしく声を掛けた。
栞は思わず箸を皿に当てて大きな音を出してしまった。
「ご、ごめんなさい。あの、聞きたいことがあるのですけど」
カイトは箸を置いて、栞に向き直った。
「わたしがここにいて邪魔ではないのですか。サラベナは大変なことがあったばかりなのに、よくわからない日本人が王様の隣にいて、変に思われたりしないのでしょうか」
それを聞いたカイトは微笑んだ。
フロアにいた全員も微笑んだようだった。
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